ひととき。

多恵子との演奏を終えると、みのるは会場の片隅で、余韻に浸る。

そこに、多恵子が相席をしてきた。

「久しぶりね」

たわいもない会話だ。

「元気だった?」

そんな会話だった。

奇蹟。

多恵子の笛の音色はみのるの弾く曲にぴったり合っていた。

どこで練習していたのか。また、この曲がどうした分かったのか。

みのるは自分の演奏をしながら笛を吹く多恵子とそんな思いをしていた。

みのると多恵子の音色はいつまでも会場に流れていた。

いままでのすれ違いを打ち消すかのように。

二人の息はぴったり合っていた。

めぐりあう。

今日はみのるの晴れ舞台の日だ。

仲間たちが一年に一度だけ、集うパティーに出席する。

みのるはこのパティーで出演する。

パティーでは何人かが思い思いの催しをする。

みのるはピアノ演奏することになった。

この日のために何年もピアノを練習した。

200人近くになる人の前で演奏するのだ。

みのるの演奏が始まっても参加者のほとんどはみのるの演奏を聴いていない。

それはそれでいいこと。みんなが一年ぶりに集い

気分のいい酒を飲んで楽しむ。そこに少し雰囲気の

よいバックグラウンドで音楽が流れている。

それをみのるが担当しているのだ。

みのるのレパートリーのマイウエイが流れると

みんながみのるの演奏に耳を傾ける。

なかなかみのるの演奏は上手い。

パティーは半ばを迎える。

そろそろ、みのるの演奏は残すところ1曲となった。

この曲を弾くためにピアノを練習したのだ。

題名は「忘れられない恋」だ。

みのるはピアノを弾きながら自分が歩んできた道を

振り返っていた。

思えばたくさん恋をした。

その恋を思い返して弾いていた。

そして、曲の終盤を迎えたとき、笛の音とともに一人の女性が

舞台横に現れた。それは多恵子だった。

再会

みのるは多恵子のことは忘れていた。

正確には忘れようとしていた。

多恵子と出会ってから2年近くは

彼女とはあまり仲良くしようとは思っていなかった。

昔、別れた彼女にどことなく似ていた。

だから、また同じことが始まるって思って

距離感を保っていたのだ。

それが、ある時、その距離感を埋める出来事が起こったのだ。

出会い。

みのるはN市住んでいる。

そこから、1時間近くかけてNA市まで働きに出かけるサラリーマンだ。

年齢は35歳で独身。

早く結婚して落ち着きたいとは思っていたのだが、とうとう30代半ばまできてしまった。

そうなったのには理由がある。

まあ、男にはよくありがちなことなのかもしれない。

いろいろ付き合ってみたが、昔、別れた女のことが忘れられずに、どうもうまくいかない。

というのがそれ。

彼女の何がいいという訳ではないのだが、彼女との思い出がよみがえってきては、どうも今の女への思いが薄れていくというパターンを繰り返してきた。

もう、女と付き合うのは面倒だとも思ったりの毎日が続く。

みのるはいつものように電車に乗り仕事場までの約1時間を音楽を聴いて過ごしていた。

いつものように途中の停車駅では人が乗り降りしている。そんな毎日を送ることにも慣れてきた。

ときどき、お気に入りの人が乗ってくるとそっとその人のことを観察してみたりする。

もちろん声をかけるたりはしない。どんな人なんだろうと想像するだけで満足するのだ。

彼氏はいるのかな?。もしかして結婚してるのかも?。

どんな性格してるのかな?。その人の身振りとか仕草で大体のことは分かるのだ。

みのるのお気に入りの人は、物静かで落ち着きのある人。品のよい人が好みだ。

もちろん、声をかけても話ぐらいはしてくれると思われるような優しさのある人だから、

普通に声くらいかければいいのに、それはしない。

電車通勤はみのるにとっては出会いの場所でもある。

そんなある日のことです。

少し気になる女性が現れた。

見た目はおとなしそう。何か少し影がある。上品なまなざし。

雰囲気がすごくいい。何か出会いの予感を感じさせる。

彼女はNA駅から西向きの電車に乗る。

1週間に1度だけNA駅で見かける。

また彼女に会えるのが楽しみだ。

休みの日に久々に出かける。

NA駅から西向きの電車に乗る。

新幹線で行けば40分位の場所に向かう。

そこは、彼にとってのんびりできる場所。町並みと雰囲気のいいところ。

そこにはK寺がある。

K寺では縁結びの行事が行われている。

それが目的だ。

縁結びのおまじない。それはひそかに行われる。

それを終えると彼は町の雑踏の中に消えていった。

みのるは町を気の向くままに歩いていた。

町は観光で訪れた人でにぎわう。

町の小道にはいろんな店が軒を連ねている。

みのるはお香の香りに導かれるようにその店に入る。

店の中にはいろんなお香の香りが漂っていた。

静まり返ったその店でみのるは偶然に

半年前に告白して振られた多恵子に会う。

多恵子は友達と来ていた。

彼女はみのるに気付いていない。

みのるは多恵子に気付かれないように

彼女たちの後に付いていった。

多恵子たちは、神社に向かっていた。

何か願い事を書いて神社のわきの木に結んでいた。

多恵子とはあのとき以来、音信が途絶えていた。

なんか気まずくなったままでいた。

今は友達としてしか見れないと言われて

それっきりだった。